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「古代官道」と「屯倉」


 既に見たように「評制」施行の時期がもっと早かったとすると「屯倉」制の施行と各地への設置・展開というものももっと早かったと言う事にならざるを得なくなります。このことはさらに「屯田」と「官道」についてもその実施時期や着工時期などがもっと早かったことにつながるものです。それは、それらの間には「密接」な関係があると考えられるからです。
 「騎馬勢力」の「全国展開」という中で、各地への「武装植民」が実施されるようになると、それらは「屯田兵」として「耕作」を実施しながら、周辺の人々に対する威嚇と鎮圧なども兼ねて存在していたと思われます。
 その後「馬具」などが「前方拠点」としての「近畿」などで一括的に生産されるようになったと見られますが、その下地としては「古代官道」の整備が進行していたことがあったのではないでしょうか。それは生産されたものを各地に「配送」する事が可能となったことを意味しますし、逆に各地から「物資」を中央に輸送、集約することが可能となったことも意味しますから、その前提として「古代官道」が存在している必要性があると思われるわけです。
 「古代官道」は、その幅といい、直線性といい遠く離れた地点を最短距離と時間で結ぶことが可能とするものであり、明らかに軍事用途が第一ですが、これを「馬具」という当時の高度な軍事目的を持った物資の輸送に充てられたとするのは当然とも言えるでしょう。

 またこの「古代官道」は「中央」への「租」「調」など物資の輸送ルートとしても使用されたと見られます。「屯倉」はその「物資」の集約拠点としてこの「古代官道」に沿って造られていったと考えられ、「皇太神宮儀式帳」に書かれた「屯倉」設置、「評督任命」という段階で既に「古代官道」が整備されつつあったことを示しています。
 また、「屯倉」に集められた物資は全て「王権」に上送されるものであり、「屯倉」とその後背地である「田畑」は全て「直轄地」であったと考えられます。
 よく言われるように「犬養部」の存在と「屯倉」との関係も指摘されています。「屯倉」に集積された物資を守衛するために「犬」を利用したものであり、それを操る氏族として「犬養部」という「部民」が発生したものと見られます。王権に直送される予定の物資を保管しているわけですから、その警備は厳重でなければならないはずであり、犬を利用して警備に当たる職掌が発生したというわけです。この氏族は当然のこととしてその発生が「屯倉」の発生とほぼ時を同じくすると見られますから、逆に言うとそれほど古い氏族ではないと思われ、新進の氏族であると思われます。

 この「犬養部」を担った「犬養氏」には「若(稚)犬養氏」「阿曇犬養氏」「海犬養氏」「縣犬養氏」の四氏がいたとされます。(いずれも「連」姓)
 『書紀』でも「安閑紀」の「屯倉」の大量設置記事の「直後」に「犬養部」設置記事があり、深く関係していたことが窺えます。

「(安閑)二年(五三五年)五月丙午朔甲寅 置筑紫穗波屯倉・鎌屯倉 豐國碕屯倉・桑原屯倉・肝等屯倉【取音讀】大拔屯倉・我鹿屯倉【我鹿 此云阿柯】火國春日部屯倉 播磨國越部屯倉・牛鹿屯倉 備後國後城屯倉・多禰屯倉・來履屯倉・葉稚屯倉・河音屯倉 婀娜國膽殖屯倉・膽年部屯倉 阿波國春日部屯倉 紀國經湍屯倉【經此云湍 俯世】河邊屯倉 丹波國蘇斯岐屯倉【皆取音】近江國葦浦屯倉 尾張國間敷屯倉・入鹿屯倉 上毛野國獄屯倉 駿河國稚贄屯倉
 秋八月,乙亥朔,詔置國國犬養部.
 九月甲辰朔丙午 詔櫻井田部連・縣犬養連・難波吉士等 主掌屯倉之税.」

 この「屯倉」設置記事は『安閑紀』として書かれていますが、実際には「六世紀半ば」付近が措定され「磐井」の時代以降のことと推察されます。『風土記』に書かれた「磐井」の墓域に配置されていたという猪を盗んだ人を裁く図の背景には、まだ「犬」を利用した警備が行われていなかったということが推測できます。

 また、ここで「屯倉」を主管する氏族の一つとして「犬養氏」が指名されていますが、その中でも「縣犬養氏」の名が出されていることは「縣」制の施行と関連していると考えられます。
 「倭国王」の直轄領域である「九州島」の周辺にはこの時点で「国−県(縣)制」が施行されたものと見られ、そこに設置された「屯倉」の周辺には「縣犬養部」が配置されたと見られるのです。そのため「犬養氏」の中でも特に「縣犬養氏」が重視されていたという事があったものと見られます。
 また「阿曇犬養氏」「海犬養氏」とは「筑紫」周辺の水軍に関わる氏族であると考えられ、「阿曇」「宗像」「住吉」「松浦」などの各氏族が「屯倉」の守衛というある意味「名誉」といえる地位を得た事を示していると思われます。


(この項の作成日 2013/09/25、最終更新 2018/10/27)