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宇宙線と気候変動


 これらの気候変動については、後の「マウンダー極小期」(1645年から1715年の間太陽黒点数が大きく減少し、太陽活動が著しく低下したと思われる期間)のような明らかな太陽活動に起因するものとは異なると考えられます。それを示すのが「シリウス」に対する人々の関心の高さであったと思われるわけです。
 例えばその「マウンダー極小期」をはじめ12世紀から18世紀付近まで太陽活動が低下したためと考えられる気候変動が多くありましたが、その当時起きたとみられるのが「天道信仰」です。これは明らかな太陽(日輪)信仰でした。日本ではすでに仏教も「神道」もあった中で、「天道信仰」がそれらに融合しているようでありながら、実際には微妙に「別」に行われていたように見られるわけですが、すでに述べたように「祭る」という行為の対象は本来「邪悪」をもたらすものであるはずであり、この場合その気候変動の主因として(当然「シリウス」ではなく)「太陽」が最も疑われたことを示すものですが、言い換えると太陽以外に目立った天変地異が見当たらなかったものであり、人々の目はいやおうなく「太陽」に注がれざるを得ないものであったとみられるわけです。
 このマウンダー極小期中には天候不順が起き、農作物は実らず、世界的に飢饉が起きました。そのため栄養不足や日照不足による健康の悪化により「疫病」(ペストなど)が発生し、さらに経済恐慌が起こりました。これら種々の不安定要因が重なった結果人々は治世者に対する不満を強く抱き「革命」が起こるなどの政治的変動が起きました。(このようなことは後漢末期と様相が似ています)

 一般には「太陽信仰」は「太陽活動」が活発なときに起きるとされていますが、それはそうではなく「太陽活動」が停滞しているときにこそ「太陽信仰」は起きているのであり、復活を願う神事が各地で行われたと見られます。一見極大期に太陽信仰の象徴とされるもの(ストーンヘンジやピラミッド等)が見られるようですが、これらは実際には「太陽活動」の停滞していた時期に発生したものであり、それが極大期に移行した後でその信仰が再確認されたということであり、感謝を込めてなおかつ又活動が衰退しないようにという願いを込めて活動極大期にその信仰が継続されたと見られるのです。
 このような要因を紀元前八世紀付近に敷衍すると、そこでは人々が「シリウス」に注目して「祭る」行為が行われ始めているわけであり、「シリウス」の観測開始やカレンダーの作成など人々が「シリウス」と「気候変動」を関連付けて考えるようになったと思われるわけですから、この当時の気候変動は「太陽」ではなく「シリウス」がそれまでとは違う状況になったことに原因があることは明確と思われるわけです。しかし、そのように仮に「シリウス」で「増光」つまり「新星爆発」があったとしてもそれが「気候変動」に結びつくのかという問題があるでしょう。ところが、その可能性は十分にあると考えられるのです。

 現在「気候変動」について提唱されている説の中には「宇宙線による大気電離が,大気中のエアロゾル形成を促進し,雲核生成やそれに基づく雲量変化をもたらし,地球気候の変動に影響する」というものがあり(※3)、通常は「銀河宇宙線」(銀河系中心からの宇宙線)あるいは「太陽宇宙線」がその主役とされていますが、「シリウス」が「新星爆発」を起こしたとすると、そのとき放たれた「高エネルギー宇宙線」が至近距離にある太陽系に(ほぼ減衰なく)向かってきたと思われるわけです。
 すでに新星が宇宙線の発生源とする研究も出ており(※4)、その意味では「シリウス」が新星爆発を起こしたとすると、近距離でもあり大量に宇宙線が太陽系に飛来したとして当然です。

 これらの宇宙線の影響は太陽活動と深く関係しています。太陽活動が活発な時期は太陽磁場が広く太陽系を覆うため、荷電粒子である宇宙線はその磁場にトラップされて太陽系内部への侵入が大幅に制限されます。しかし太陽活動が低下すると磁場も弱まり、太陽系内に降り注ぐ宇宙線の数が増加することとなり、それは地球においても大気上層に侵入する宇宙線の量の増大となります。
 太陽系に向けて高エネルギー宇宙線(特にシリウス起源のもの)が侵入したとするとそれにより極域の低層大気に多くのエアロゾルが形成された可能性が考えられ、気候変動の要因となったものと推定出来るでしょう。(極域振動の要因として「極域」と「赤道域」の温度差の変化が考えられており、「極域」の雲量が増加することはこの「温度差」の拡大につながった可能性が強く、その場合気圧分布や温度分布など「振動バターン」に変化が現れ気候変動につながった可能性が推定できます。

 上のように大気中のちりがエアロゾルとなり雲核となるという過程はすでに知られていますが、従来の観測と簡易計算によるシミュレーションでは生成される雲量が大きく食い違うことが知られていたようです。それがどのような理由によるか不明であったのですが、JAXAのサイトによればスーパーコンピューター「京」により精細計算を長期間のスパンで行ったところ、観測に近い結果となったということのようです。それによれば全地球的に雲量が増加するのではなく、特に海洋あるいは低緯度地域においては逆に雲量が減少するという結果となったというのです。これはかなり興味深い結果といえます。
 すでに弥生時代の始まりの契機となった全地球的気候変動の原因として、シリウスの(伴星による)新星爆発現象による宇宙線増大があり、それが雲核となるエアロゾルを増加させ(特に極域で)雲量が増加したことにより低緯度領域との温度差が大きくなったことで「極域振動」が活性化されたとする見解を披歴していますが、このJAXAの研究はそれを補強する結果とみています。
 このスーパーコンピュータによる解析結果では極域付近で雲量増加するエリアが広くあるように見られ、逆に低緯度地域では雲量低下となるわけですから、明らかに両地域の日照量の差は通常の場合より増大することとなります(そもそも宇宙線量は荷電粒子であるため地球磁場にトラップされ極域で多く降り注ぐこととなります)。
 宇宙線がエアロゾル生成の有力な要因として考えられていることを踏まえると、「京」によるシミュレーションによっても雲量が極域で増大するという可能性が高く、この結果は明らかに「極域振動」に対して「外乱」として作用するものと思います。その場合特に中緯度地域でジェット気流の蛇行が起き、広い地域で気候変動が起きたことが推定できます。

 もしその考えが正しければ、高エネルギー宇宙線の影響が別の面でも現われる可能性が高いと思われます。それは放射性炭素(C14)の生成量の増加です。
 大気中のエアロゾル増加が火山などの地球起源のものであるなら、C14の生成量の変化には結びつかないと思われます。この紀元前八世紀付近におけるC14の生成量はどうだったのでしょうか。


(この項の作成日 2016/03/13、最終更新 2020/06/20)